#32 「彼女がいても、男がAVを観る理由」

SPECIAL COLUMN

#32 「彼女がいても、男がAVを観る理由」/妹尾ユウカ

「私という存在がありながら、なぜ彼はAVを観るのか」
来月で30歳を迎える女友達との食事中、突然、こんな相談を受けた。
思わず「なに10代みたいなこと言ってんだ」と笑いそうになったが、彼女はいたって真剣な顔で、私の答えをじっと待っていた。

「セックスはドライブ、AVはマリオカート」

彼女がいてもAVを観る理由。それは、「免許を持っていてもマリオカートは楽しいから」。きっと、それ以上でも以下でもない。

現実のドライブとマリカーは、似て非なるもの。本物の運転には、責任や集中力が求められるし、他人の命を預かっているという重みもある。
けれどマリカーは違う。気楽にアクセル全開で走れるし、アイテムをぶつけても、罪悪感なんて一切ない。
これは、AV鑑賞と実際のセックスの関係によく似た構図だと思う。

AV鑑賞というのは、シンプルで手間もかからず、誰にも気を遣わない。
セックスには、相手との呼吸や気配り、感情の共有、体力の消耗が伴うけれど、AVは一切のコミュニケーションが不要。
最短ルートで目的を達成できる、いわば“省エネモードのセックス”なのだ。

「同じカテゴリで考えないで」

それに、AVに登場するのはフィクションとして完成された“理想の女性像”であることが多い。現実の恋人と比べているわけではなく、そもそもカテゴリが違う。
それなのに、彼女側が「私じゃ満足できないの?」と捉えてしまうと、話がすれ違ってしまう。

彼氏がAVを観ることは、彼女に対する愛情の有無とは無関係で、あくまで"一人の時間をどう過ごすか"という個人的な選択にすぎない。
彼がAVを観ることは、あなたを否定しているわけではない。
ドライブとマリカーが別物であるように、セックスとAVもまったく別軸の“楽しみ”として機能しているだけなのだと思う。

「私たちはやらないけどね」

そんな話をしているうちに、ピザのチーズはすっかり冷え固まっていた。
けれど彼女は、それなりに納得してくれたようで、「なるほどね。あー、なるほどね」と繰り返していた。
私は、「ピザを犠牲にしてまで得たリアクションがこれか」と少し肩を落としかけたが、「まあ、それも無理はないか」とすぐに思い直した。

だって、私たちは家事を手伝うようになったら、おままごとなんて一切しなくなったし、友達と服を買いに行くようになった頃には、『ラブ&ベリー』も自然とやらなくなっていたから。
すんなりと理解できなくても無理はない。

マリオカート、スマブラ、ポケモン、ドラクエ、エッチなお姉さん――男たちだけが、何年経っても同じ遊びで盛り上がり続けている。
私たちが“卒業”していっても、彼らはずっと“放課後”の中にいる。ただそれだけのことだと思う。

妹尾ユウカ

独自の視点から綴られる恋愛観の毒舌ツイートが女性を中心に話題となり、
『AM』や『AERA.dot』など多くのウェブメディアや『週刊SPA!』『ViVi』などの雑誌で活躍する人気コラムニスト。
その他、脚本家、Abema TVなどにてコメンテーターとしても活動するインフルエンサー。

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