#24「条件的にはモテそうな男たちが独身な理由」/妹尾ユウカ
SPECIAL COLUMN
#24「条件的にはモテそうな男たちが独身な理由」/妹尾ユウカ
現在、日本において年収3千万円以上を稼いでいる人は、給与所得者全体の0.3%に満たないらしい。港区基準の感性ではとても信じがたい話だが、年収3千万円は日本の平均年収(国税庁の最新の調査よると458万円)よりも6倍以上高く、最低3千万円以上を稼ぐ人は約15.2万人しか存在しないという。
もしも、この15.2万人の中から結婚相手を探そうとした場合。ひとまずは「独身男性」に絞り込む必要があり、さらには「都内在住」「40歳以下」「ブサイクではない」という譲歩に譲歩を重ねた条件を加えることで、より分母は激減する。そうなると、これまで貶してきた周囲のオジたちが、突如"伝説のポケモン"のようなレア感を帯びてくるが、同時に「なぜ彼らはまだ独身なのか」という疑問も生まれる。
YOUはどうしてお独りで?
一応、断っておくが、結婚していない高スペック男性のことを異常者だと思っているわけではない。大衆よりも優れている分、異質な部分も当然あるはずだが、それはどういったものなのか。「結婚する気がない」という者はさておき、彼らにはどんな特性や欠陥や幸せがあるのだろうか。未だ、ミュウツーやレックウザがポケモンマスターたちに捕獲されることなく、野生で暮らせている理由が知りたいのだ。
そんな探究心が生まれた時、とある一人の男性と出会った。私のSNSをご覧の方ならご存知の方も多いと思うが、通称ダメ国さんこと為国辰弥さんである。為国さんは現在36歳。独身の経営者であり、年収は3千万円を超える。あいつを喜ばせるのは癪なのであまり言いたくないが、容姿は見る人によってはイケメンの部類であり、身長も180cmを超える、筋肉質で勤勉な男。肝心な結婚願望も持っている。
しかし、残念なことに彼はこれだけの好条件を凌駕するほどのヤバさも「ネタか?」と思うほど持っている。例を挙げればキリがないが、以前、私が彼女に贈る誕生日プレゼントの予算について尋ねた時もそう。為国さんは「彼女を22,3歳と仮定して、予算は5万円以内でブレスレットなどを贈る」と答えた。ヤバすぎる。
ツッコミどころはたくさんあるが、手初めにその予算の低さについて指摘したところ、「5万円は普通だよ。妹尾ちゃんの価値観が港区基準すぎる」と返された。ヤバすぎる。36歳のオジが仮定する彼女の年齢が20代前半であることこそ、港区基準でありズレているという自覚がまるでない。恋人を選ぶ基準は港区的でありながらも、自身が恋人に提供する贈り物には一般的価値観を当てはめようとするタチの悪さ。ヤバすぎる。この他にもダメ国さんの激ヤバエピソードは山ほどあるが、▶︎たたかうとケガをするので▶︎にげるとさせてもらう。
モンスターはどんなところにも
ハイスペ独身男性について研究する上で、為国さんはあまりに偏ったサンプルすぎたが、おそらくこの件において、バランスの取れたサンプルが見つかることもない。男性は社会的成功を収めると、パーソナリティーの問題は度外視されがちになり、人からなにか指摘を受ける機会がめっきり減ってしまう。そのせいで、モンスターたちはすくすくと進化を遂げてしまうのだ。
これから話す、もう一人の伝説のポケモンは年齢35歳。為国さんよりも高身長で高収入。加えて、誰が見てもイケメンであり、誰が聞いても人気の俳優。なのに、彼もまた為国さんにバトルを挑めるほどの伝説のバケモンだった。失礼、伝説のポケモンだった。
ある年の私の誕生日会。彼は23時ごろ、他県でのイベント終わりにサプライズでお祝いにかけつけてくれた。当時、彼のことが好きだった私はとても嬉しくて、部屋中にあしらわれた風船と共に天まで登ってしまいそうだった。彼を呼んでくれた、普段は余計なことしかしない友人にも初めて感謝を述べた。「生まれてきてよかった!人生最高!」心からそう思っていた。
しかし、それは束の間の出来事だった。
「お誕生日おめでとうございます(イケボ)」
そう言って渡されたプレゼントは9個入り個包装のタルトだった。おい、あまりに脈なしすぎるだろ。心の風船に穴が空き、急速に萎む音が聞こえた。ヤバすぎる。一応、私たちはこの時すでに男女の関係にはあったはずだが、私の記憶違いだろうか。それともこれは「食べて終わり」というメッセージなのか。知人・他人レベルの贈り物に「頂き物の使い回しでは?」という絶望的な可能性まで感じるが、"真剣に選んだタルト"よりはよっぽどマシである。
ちなみにタルト美味しかった
未だにタルトの経緯は謎のままだが、いずれにせよナンセンスであることには違いない。為国さん同様、前々から彼にも魅力的な面と同じくらい評価し難い面があり、「それさえなければ」と思っていたが、きっと"それ"がなければ、せいぜい人のモノとしてでしか、出会うこともなかっただろう。
あれから年月が経ち、女たちの「彼は誰を選ぶのか」という注目の目は「誰がアレをもらうのか」に変わってきたように思える。体感的な話だが、この視線の変化は男が37歳を越えたあたりから生じ始めるような気がする。
本当に一体、誰が彼らをもらうのだろうか。見届けたくて仕方がない。伝説のポケモンたちは、十分なコラムのネタだけではなく、長生きをする楽しみまでくれたのだった。
妹尾ユウカ
独自の視点から綴られる恋愛観の毒舌ツイートが女性を中心に話題となり、『AM』や『AERA.dot』など多くのウェブメディアや『週刊SPA!』『ViVi』などの雑誌で活躍する人気コラムニスト。
その他、脚本家、Abema TVなどにてコメンテーターとしても活動するインフルエンサー。