#21「そんなに考えなくていいと思うよ」/妹尾ユウカ

SPECIAL COLUMN

#21「そんなに考えなくていいと思うよ」/妹尾ユウカ

意外かもしれないが、こう見えて雑多な場所が好きだ。毎月、クレジットカードの明細にはドン・キホーテや薬局での使途不明金がたくさんある。どれも通販で買えるものばかりだから、友人から「なぜ肘の内側を鬱血させてまで店舗で買うの?」と聞かれるが「雑多な空間にまんまと購買意欲が湧いちゃうの・・・」としか答えようがない。そうそう、サーティワンことバスキン・ロビンスも大好きだ。明らかに身体に悪そうな色が並ぶショーケースを見ているだけで興奮する。レジに着いた時には、ヨダレが垂れているんじゃないかと心配になるほど気持ちが昂ってしまう。

その割に健康志向な一面もあるので、数時間予定が空けばサウナに行ったりもする。ドラマの脚本の打ち合わせを男性監督陣とサウナで行ったこともある。女同士で行く時は新大久保のルビーパレスか東名厚木健康センター。ルビーパレスのサウナ室には「会話厳禁。違反者がいたらフロントまで」と注意書きが貼られているが、マット替えのオバハン従業員が誰よりも話しかけてくる。いつ居合わせても「熱いね~」とまるで天気の話をする口ぶりで。
サウナ室での滞在時間が8分を越えたあたりで彼女が現れると、陽気な声がけと「会話厳禁」の文字が交互に訴えかけてきて、なにかの試練のように思えてくる。もしやこれは罠なのか、我々は試されている。

私の1日

土日は娘とブレスレット作りに勤しんでいる。「ビーズ入れ過ぎでしょ」「サイズおかしいよ」などといった厳しくも愛のあるご指摘を受けながら、彼女が家族に配るブレスレット製作の手伝いをさせていただいている。まだまだ見習い人の私は一度も頂いたことはない。
先日、パパとはシルバニアファミリーで遊んでいた。元旦那であるパパが「パパも家族に入れてもらえるのかい?」と5歳にとってはちっとも面白くないことを言いながら、嬉々と参加したのも束の間。すぐに「パパはベッドなしね」「トイレにも行っちゃダメ」と言われ「パパにも人権を!」と請いていた。ざまあみろ。
夕食時にはよく映画『ペット』を観て笑う。彼女のお気に入りは、老犬に見つめられた気高い猫が「Uh キモ」と言う辛辣なワンシーン。血は争えない。

深夜は港区おじさんの恋愛相談を聞く。「この子が俺を好きで、でも俺はこっちの子が好きで、最近はこんな子からよく誘われる」とハイブラの豚さんが若い女たちのインスタのページを飛びまわる。私が「恋愛育成ゲームのやりすぎで現実世界との区別が付かなくなったのか?」と尋ると、店中に響き渡る大きな声で笑っていた。彼の妄言を聞いていた他の客たちの方が、彼のことを笑いたかったに違いない。ちなみに、この日に着ていた蛍光色のヴィトンのダウンは「こんなの俺が買わなきゃ誰が買う」という義務感で購入したらしい。バカみたい。
一時、10歳年上の友人から「乳首が驚くほどピンクになるから!」とタイ製の怪しいクリームを薦められていた。結局、その商品は薬事法に引っかかり、現在では販売中止となってしまったが、その効果はどれほどかというと、綺麗なピンクになり過ぎて、バーで色んな人に自慢気に見せてしまうほどだったそう。ハッキリ言って、飲み屋で時計自慢をする半グレの方がよっぽどマシである。

もっとずっと気楽に

さて、あと何十年もすれば、港区おじさんは青山霊園で供養され、女友達は誰かの奥さんやママの顔を持ち、私はサーティワンが歯に染みるようになっているかもしれない。何を取っても「かもしれない」ことばかりだが、それに胸を躍らせていたい。今、確かに分かることなんて、私もみんなも少しずつ着実にこんな雑多な日々の名シーンを忘れていくということだけだから。

妹尾ユウカ

独自の視点から綴られる恋愛観の毒舌ツイートが女性を中心に話題となり、『AM』や『AERA.dot』など多くのウェブメディアや『週刊SPA!』『ViVi』などの雑誌で活躍する人気コラムニスト。
その他、脚本家、Abema TVなどにてコメンテーターとしても活動するインフルエンサー。

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