#9「謙虚さなんて何の役にも立たなかった」/妹尾ユウカ
SPECIAL COLUMN
#9「謙虚さなんて何の役にも立たなかった」/妹尾ユウカ
病むという感覚を忘れてからしばらくが経つのだが、これは落ち込む事態に見舞われることがなくなったからではない。生まれつきメンタルが強靭なわけでもない。ただ、色々な災難に巻き込まれて行く中で、物理的に大型車などに轢かれでもしない限りは社会からドロップアウトできないカラダになってしまった。そんな屈強なグラセフボディーになるため、保つための心得を今回は紹介しようと思う。
「どうせ忘れる」
私が思うほど他人は私に興味がない。悲しい言葉に聞こえるかも知れないが、これは最高な事実である。例えば、飲み会でハメを外しすぎて、友人に迷惑をかけてしまったり、好きな人の前で醜態を晒してしまったとしても、翌日には意外と誰も気にしていない。気にしているのは自分だけである。私が「酒鬱」という名の無意味な自己嫌悪と真摯に向き合い、座禅を組んでいる間にも、よっぽどなことをしていない限りは、皆がそれぞれの日常を過ごしてくれる。
ちなみに私の記憶にはないので、やっていないも同然だが、女友達も乗せたタクシーの後部座席で長年のセフレへのフェラを見せつけた時も、大手飲食店予約サイトの社長から名刺を頂き、その場でムシャムシャ食べた時も、翌日には誰も気に留めていなかった。いや、最後の失態に関しては、3日経ってもプンスカ怒っている奴がいたが、そいつ以外は怒っていなかったし、謝ってもグチグチとうるさかったので「じゃあ私を呼ぶな」と言ってやった。私がお酒を控えるよりも、お前が二度と私を呼ばない方が簡単な話である。バカか。
とにかく、自分自身は常に自分という生き物に1番の興味関心を向けて生きているため、自分の失態を考え過ぎてしまい、ちょっとしたことであっても大ごととして捉えてしまっているだけなのだ。それは誰しも同じなので、みんないい意味でお前のことばかり考えていないから大丈夫だよという話である。
「メンヘラは全員暇人」
そもそも、暇だから病んでしまうのであり、こもるから滅入ってしまうのだ。我々人間がラプンツェルのように塔にこもって暇を謳歌出来るはずがない。ハッキリ言って、ラプンツェルは異常である。その証拠に動物と喋っている。
暇の恐ろしさは本当に侮れない。特に、気分が底をついている時に暇を作ってしまうのは、最も愚かな選択である。病んでいる時は、悩みの種となっている事柄について考える時間を削減することに勤しんでほしい。極論、考えるから病むのであり、暇があるから考えるのだ。だから、そんな時こそ誘いには乗れ、外に出ろ、人と会え。ただの根性論に聞こえるかも知れないが、これが意外と助けになる。
私は女友達がどうせ3ヶ月も経てば忘れているであろう男のことで深く悩んでいる時は、とにかく連れ回すようにしている。今、外に出たところで解決の糸口が見えない気がするのは分かるが、家にいたって解決の糸口は絶対に見えない。だから、少しでも見える可能性がある方にBETしてみてほしいのだ。最後に聞くが、あなたは多忙なメンヘラをみたことがあるだろうか。そういうことである。
「欲しいものは欲しいと言え」
欲しい物を前にした時、謙虚でいることを美徳とするのは損である。「欲しい」と言った人間と欲しそうな顔をした人間では、実際に与えてもらえる確率が違う。後者の振る舞いを心がけて暮らしていた頃は、欲しいものが手に入らないことよりも、自分が強欲な人間だと誰かに思われることを恐れていた。しかし、驚くほどに謙虚さというものはなんの役にも立たない。チャンスを取りこぼすだけである。
むしろ、本当に根っからの謙虚さがあるわけではないのに、欲しい物を前にして謙虚さをアピールすることこそ強欲であり、姑息である。なぜなら、そこには相手に謙虚というイメージも与えながら、欲しい物も手にしようという二つの欲が存在しているからだ。
謙虚さなんてものは、欲しいものを欲しいと言ったくらいではなくならない。手に入れたいものを手に入れたいと示したくらいではなくならない。他にも謙虚さを示す機会や方法はいくらでもある。「この人、謙虚に振る舞ってるけど本当は欲しいんじゃないかな」と察してもらおうとするのはさっさとやめろ。欲しい物を前にして、欲しくない顔をするのも意味がないからさっさとやめろ。察してもらえなければ手に入らないし、察してもらうという行為は相手へ労力を与えている。欲しいものには素直であれ。私はエメラルドカットのハリーが欲しい。
「なるべく綺麗でいろ」
これは容姿に限ったことではなく、全てをなるべく綺麗でいろ。「部屋の乱れは心の乱れ」と言うが、本当にその通りである。心が荒んでいる時は部屋もしっちゃかめっちゃかであることが多い。しかし、心が乱れて部屋が乱れるのならば、部屋を整えれば心も整うということだ。なんてお得な話なのだろう。誰しも経験済みだと思うが、部屋を綺麗にするだけで、心が少し満たされる。背筋が伸びた気分になる。そして、部屋を綺麗にすることの一番の魅力は、やり終えてから絶対に後悔しないという点。お風呂に入ることも同じである。
ついでに、人様に見せられないような小汚いすっぴんや、男に見られたくないダサいルームウェア姿は、自分にもなるべく見せない方がいい。外に出る時だけ上っ面を着飾ったって、日頃の自分が一番よく見ている自分の姿が綺麗でなければ、自己評価が下がるからだ。自分を綺麗だと思える時間をなるべく長く持ってほしい。
私も気が滅入りそうな時には、必ず丁寧にメイクをして、誰かしらをご飯に誘い、目的地まではなるべく歩く。オンラインで済む買い物だって、わざわざ百貨店まで出向く。人目の多い通りをマノロで歩き、時間があれば電車にだって乗る。繁華街を元気に通り過ぎる人たちの一員になることで、玄関を出てしまえば何も変わらない世界があるということを知れる。そして、実際には昨日と今日では同じ時間帯の同じ場所であっても、行き交う人たちは全く異なるので、「一見、変わらない世界にも新しい出会いがまだ残っている」という当たり前の希望が持てる。それらを手土産に家路に着くのだ。
最後になるが、幸運なことにこのコラムを書かせて頂いているサイトはRAVIJOURというランジェリーブランドであるため、これを読み終えた勢いで、気分の上がるルームウェアや下着を1着でいいから購入してみて欲しい。これを読んだあなたがパワフルに生きるための誓いの1着を手にしてくれたら私は嬉しい。だって、今この瞬間、私の言葉にどんなに感化されていたって、きっと明日には忘れてしまうのがお前たちだから。
妹尾ユウカ
独自の視点から綴られる恋愛観の毒舌ツイートが女性を中心に話題となり、『AM』や『AERA.dot』など多くのウェブメディアや『週刊SPA!』『ViVi』などの雑誌で活躍する人気コラムニスト。
その他、脚本家、Abema TVなどにてコメンテーターとしても活動するインフルエンサー。