#5「今日も本気度0%、可愛い「死にたい」との戦い」/妹尾ユウカ

SPECIAL COLUMN

#5「今日も本気度0%、可愛い「死にたい」との戦い」/妹尾ユウカ

ワケもなく何もかもに疲れることがある。一人になりたいが独りには耐えられず、また出向いてしまった歓楽街や入れてしまった着信履歴。何に悩んでいるのかと言われても「なんか疲れた」としか言いようはなく、何が不満かと考えてみれば「何もかもが不満」に行き着く。そんな自業自得の自己嫌悪と最近はもっぱら向き合っている。今日も本気度0%、可愛い「死にたい」との戦い。

人と比べることで幸せを感じたっていい

私は恵まれていると思う。世界にも周囲にも私よりも恵まれている人は大勢いるし、逆もまた然りではあるのだが、自らを「恵まれている」と言い切れるくらいには恵まれている。お金をたくさん持っていること、友達がたくさんいること、異性からモテること、才能があることetc…なにをもって恵まれていると思えるかは人それぞれであり、そのために必要な数字もそれぞれだが、その指標を左右するものは周囲の環境にあると思う。

「幸せを人と比べるな」とよく言うが、そんなの普通に無理がある。綺麗事にもほどがある。社会には綺麗事によって上手く保たれている秩序もたくさんあるので、それ自体を真っ向から否定するつもりはないのだが、”人と比べる”ことはそう悪いことばかりではない。マンションのエレベーターで居合わせた中年男性が自分の部屋よりもうんと低層階のボタンを押す姿に妙な優越感を感じたり、アラフォーコラムニストが10年以上も前に出したエッセイ本を読んで、自分の才能に感謝をしたり。そんな風に安心感や誇らしさを内に秘めては勇気付けられる日がまだまだある。そんな情けない生き方で私は今日もイキっている。

自分の機嫌は自分で取るしかない

その反面、人と比べることで自分をちっぽけに感じる場面も多々ある。けれど、そんなことでフテっていたって誰もあやしてはくれやしないので、劣等感はすべて向上心に変換して、なんとか自分のご機嫌を取っている。「私には何もない」「代わりなんていくらでもいる」とヘソを曲げたくなる日もたまにはあるが、「一生懸命」や「全力」とは程遠い生き方をしているくせに、生きているだけで見返りを求めるなんて、なんとも図々しい話である。我が国の総理大臣ですら、あんなにも代わりがたくさんいるのに私の代わりがいくらでもいるのも当たり前のことである。

とはいえ、親しい人間にとっては私の代わりもあなたの代わりもどこにもいない。

あの子がすぐに誰かを好きになる理由

先週、女友達がまた自傷行為と呼べる深い眠りについたと知って、Uber Eatsをキャンセルした。食が通らないほどに悲しい気持ちになったからではなく、私がどんなに大切に思ったところで救われる気のない人間を救うことはできないという現実に落胆したのだ。正直なところ、彼女が死んだところで私は何も困りはしない。むしろ、しょうもない男とのしょうもない話に耳を貸す手間はなくなるし、「本当にもう薬物はやめる」「本当にちゃんとする」といった詐欺にもこれ以上遭わずに済む。彼女の「本当に〜」にはもうみんなが本当にうんざりしている。

彼女は私と同い年の24歳。生まれも育ちも大阪だが、彼女の口から方言を聞いたことはほとんどなく、カラオケで『大阪LOVER』が流れた時も「地元愛皆無卍」と言わんばかりの知らん顔を貫いている。周囲の知り得る彼女といえば、ご丁寧にスカーフの巻かれたLady Diorとプルミエールがよくお似合いの立派な港区女子である。容姿や声色の女の子らしさも込み込みで、第三者には恵まれているようにしか見えない彼女だが、2人きりで話していると自信のなさが垣間見える。常に「顔がいいだけ」としか形容し難い男たちと人生に波風を立たせては、天高く舞ったり深く沈んだりとなんとも忙しい彼女だが、きっと自信がないが故にすぐに誰かを好きになっているのだろう。好きになった人から愛されることで、自分のことも好きになろうとしているのだろう。

「生きたい」よりはマシ

これからもどうかそんな調子で構わないから、あなたには生きていて欲しい。「死にたい」と思う状況は絶望的に思えるかもしれないが、「生きたい」と切に願う状況に比べればよっぽど恵まれた話である。あなたも私も人はみんなそれぞれに様々な事情をかかえて、平然とした顔で生きている。もしも、また「死にたい」とあなたが思った時にはそんなことを思い出して欲しい。そして、出来ればあの日のUberのキャンセル代だけは全額あなたに払って欲しい。何はともあれ、こんな話をあなたが生きようと思える理由の1つになってくれたら嬉しい。

妹尾ユウカ

独自の視点から綴られる恋愛観の毒舌ツイートが女性を中心に話題となり、『AM』や『AERA.dot』など多くのウェブメディアや『週刊SPA!』『ViVi』などの雑誌で活躍する人気コラムニスト。
その他、脚本家、Abema TVなどにてコメンテーターとしても活動するインフルエンサー。

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