#3「不機嫌な態度を取ることは一番最低な気持ちの伝え方である」/妹尾ユウカ

SPECIAL COLUMN

#3「不機嫌な態度を取ることは一番最低な気持ちの伝え方である」/妹尾ユウカ

直近の男と別れてから3週間が経った。別れる引き金となったのは、私の「もういい」の一言である。どちらか一方が悪いなんてことはなく、互いにとっての「普通」の違いと、肩書きに対する私の期待。ざっくりと言えば、二人の別れはこれらが手繰り寄せた結果である。ただ、「もういい」という匙を投げるような別れ方をしたことは、完全に私が悪かったと思っている。
明確な不満があるにも関わらず、それを伝えることは怠り、代わりに「もういい」という一言で試すように突き放す。これでは相手に「私、機嫌が悪いです」ということしか伝わらない。おまけに「なぜ機嫌が悪いと思いますか?」という課題まで押し付けている。これは一番最低な気持ちの伝え方であり、コミュニケーションへの怠慢である。

人はそんな甘えたコミュニケーションを身近な人間に対してほど、取ってしまう。それは「もういい」や「大丈夫」といった言葉の裏に「相手なら分かってくれるかも」「私の立場になって考えてほしい」という甘えや期待があるからだろう。私の「もういい」だって「分かってよ」という情けない叫びだったのかもしれない。

「普通」は「私の価値観に従え」ということ?

互いの持つ「普通」の違いに惹かれたくせして、最後はそれに音をあげていた。「一番最初に惹かれた部分を最後は一番嫌いになる」という恋愛のセオリーは本当なのかもしれない。「普通」という言葉は共通認識の略として使うには便利だが、価値観が全く異なるもの同士の間に用いれば戦争となる。特にケンカの際の「普通はこうじゃない?」「普通はさ、」といった発言は、どうやら「私の価値観に従え」に聞こえてしまうらしい。普通にそんなつもりはないのに。

価値観が合うかどうかよりも、合わせたいと思えるか、そのための努力ができるかどうかが重要である。片方が大幅に歩み寄る形だとしても、それを厭わないほどの愛を感じられていれば「自己犠牲を払っている」だなんて気持ちにはならずに済む。とはいえ、その肝心な愛の表現方法や指標も、お互いの「普通」の異なりに比例しており、こればかりは時間をかけて相手をよく知っていくほか無い。そして、最後は惚れた側が「この人はこういう人だから」と自分の理想に折り合いをつけることで、歪な二人はようやく寄り添うことができる。
つまり、私たちがこうして寄り添っていくことが出来なかったのは、互いに「そこまでして居たい相手ではない」と思ってしまえたからなのだろう。これは二人の世界にとっては悲しいことだが、それぞれが他にも大事にしたい世界や譲れない理想というものをきちんと持っている証でもある。

似ているところがあるとすれば

私は君みたいにいつまでも眠らないし、君みたいにカレーも作れない。車やグルメにも詳しくないし、サッカーや銭湯も好きではない。似ているところがあるとすれば、”時折の無神経さ”と”出会った日にかけていた眼鏡のデザイン”ぐらいのものだろう。けれど、別れという悲しい局面を迎えても「きっとまたこの先もいい未来が待っているはず」とWANIMAの如く、前を向ける図太い精神。これだけはよく似ているのかもしれない。いくら人並み以上の紆余曲折を経てきた自負があろうとも、所詮は恵まれた人生を送ってこれた者同士なのである。

肩書きに課せられた期待

曖昧な関係でいるうちは不安を泳ぐことが苦しいが、「恋人」のタイトルを得た後も、また違った苦しみが発生する。そんなことを学んだ恋だった。私にとって”付き合う”ということは、文字通り、相手の良いことにも悪いことにもとことん付き合うという意味であり、交際とはその意思表示をするための手段である。彼は昔、「付き合っているのだから好きなのは当たり前」なんて寝ぼけたことを抜かしてきたが、「彼氏」「彼女」という肩書きを与え合ったことが安定剤となる有効期限はほんの一瞬限りである。それ以降は「彼氏なのに」「付き合っているのに」といったテイカー思考に陥っていく。相手を見る目は厳しくなり、付き合う前には求めなかったことを、交際という口約束を交わした途端に求めるようになる。そんな「恋人」という肩書きに対する私の期待は、相手にとってさぞ重荷だったことだろう。

後出しジャンケンにはなりますが

今になってこんなことを言うのは卑怯な気もするが、付き合って良かったと心底思っている。これだけたくさんの男と関わっていても、付き合ってくれた人の存在だけは忘れたことがないからだ。たかが口約束を交わしただけ、ほんのそれだけのことであっても、付き合うという誠意を向けてくれたことを大事にそっと覚えている。そういう可愛らしい一面もある。

幸せだったかと聞かれても、首をゆっくりと傾けてしまいそうだが、好きだったかと聞かれれば、すんなりと縦に頷ける。だからこそ、早いうちに別れて良かったとも思っている。もっと時間をかけて、取り返しがつかないほど愛してしまってからでは、心が持たなかったような気がするからだ。不幸な結末になった程度で許されたいと思っている。ハッピーエンドを目指すことがなにより私は怖いのだ。

妹尾ユウカ

独自の視点から綴られる恋愛観の毒舌ツイートが女性を中心に話題となり、『AM』や『AERA.dot』など多くのウェブメディアや『週刊SPA!』『ViVi』などの雑誌で活躍する人気コラムニスト。
その他、脚本家、Abema TVなどにてコメンテーターとしても活動するインフルエンサー。

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